カナダは世界に存在感を示せるか?【書評】2050年の世界地図 迫りくるニュー・ノースの時代

カナダは世界に存在感を示せるか?【書評】2050年の世界地図 迫りくるニュー・ノースの時代

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こんにちは。

Masaです。

今後20年、30年後の世界について書かれた本を見たときに、多くの本はアメリカ、中国、インド、EUなどの動向をメインとしています。

しかし、カナダについてはどうなんだろうと思っていたところ、本書が環北極海の国についてフォーカスを当てて書いていたのでご紹介します。

著者はUCLAの地理学の教授です。

副題になっている「ニュー・ノース」とは、アメリカ、カナダ、アイスランド、グリーンランド(デンマーク)、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの8か国が持つ北緯45℃以上の地域のことです。

 

世界の潮流を考える4つの力

本書はここから話がスタートします。

以前当ブログでもご紹介した「2030年世界はこう変わる」においても4つのメガトレンドから話が展開されていましたが、似たようなスタート地点です。

4つのグローバルな力

・人口の急増・人口転換(2050年頃92億人前後で落ち着く)
・天然資源・生態系サービス・遺伝子プールに対する需要増大
・経済・社会・技術のグローバル化
・気候変動

特徴的なのが4つ目に気候変動を持ってきていることで、本書の論点の多くは気候変動に端を発します。

私は気候変動については専門家ではありませんが、気候変動というものは一般に考えられているよりかなり複雑で、かつデリケートなものということが本書を読むと分かります。

例えば

最終氷河期のピーク、今のシカゴあたりが厚さ約1.6キロの氷に覆われていたころ、世界全体の平均気温は現在よりわずか五度低いだけだった。(P.41)

↑平均気温5℃違えば氷河期になるということです。意外にわずかな差です。

(温暖化は全世界で均一ではなく)気温は日中よりも夜間に、夏よりも冬に、陸地よりも海で、熱帯地方よりも高緯度地方で、成層圏ではなく対流圏で上昇している。(P.42)

↑つまり暑いところがより暑くなるというより寒いところが暖かくなるのが温暖化らしいです。これってなんだか良いことのように聞こえたりするわけですが。。

最終氷河期の終わりは緩やかでもスムーズでもなかったらしい。それどころか急激な変化で、氷期の気温と間氷期の(温暖な)気温を数回行ったり来たりした末、ようやくより温暖な状態に落ち着いた。こうした気温の大きな揺れは十年もかからず、三年間という速さで起きた。(P.300)

↑たった3年で氷河期が終わるなんて意外すぎます。

こういったことは、今後の気候変動を捉えるときに知っておいて損はないです。

 

世界の変化とニューノースの変化

4つのグローバルな力をもとに世界規模で以下のような懸念が出てくるとされています。

  • 資源不足:人口増加と都市化を支えるだけのエネルギー資源が枯渇・不足する可能性がある。
  • 水不足:気候変動による砂漠化、乾燥化による水不足が増加する人口を支えきれない可能性。飲料水が足りないというよりは、水を大量に使う農作物への影響が大きい。
  • 食糧不足:人口の増加と、現在の穀倉地帯の温暖化と、水不足とで、世界的に食糧不足になり食糧価格が高騰する可能性がある。

ただし、これは全世界をトータルで見た場合の傾向であって、実は北のニュー・ノースでは逆の変化が起こるというのが本書の主題です。すなわちカナダを含むニュー・ノースの地域では

  • 新たな資源開発の可能性:北極海の海氷融解により、膨大な資源が眠る北極海の海底資源開発が可能になる
  • 湿潤化と大量の水資源保有:温暖化によりニュー・ノース地域では降水量が増大する
  • 生態系の変化と農作物の生産増加:温暖化により生態系が北上し、これまで寒冷で農作物に適さなかった場所で生産ができるようになる

という変化が起こります。

2050年に世界の抱える資源不足、水不足、食糧不足の答えはニュー・ノースにある、というわけです。

 

カナダはどうなるか

カナダはこのようなニューノースに位置するアドバンテージを活かすことができるでしょうか。

本書からカナダに関する変化を抜き出してみると以下のような特徴があります。

  • アメリカに比べても熟練労働者の移民を優先的に受け入れており、それゆえ少ない人口ながら他の先進国と労働力の点で渡り合えている(カナダは2050年までの人口増加率がインドと共に30%を越える数少ない国と考えられる)
  • NAFTAによるアメリカとの友好関係は強固で、カナダ国内の東西間の交流よりもアメリカとの南北間の交流が多くなる
  • オイルサンド、北極海資源、水輸出プロジェクト、農業の拡大など産業拡大の可能性がある
  • 一方で、オイルサンド、水輸出などの開発や、温暖化による永久凍土融解などに伴う環境破壊の懸念がある

このように、カナダは気候変動と世界的な人口増大という外部環境の変化に対してアドバンテージを持っているのみならず、移民の受け入れやアメリカとの関係構築など自ら選択してきた国家戦略で、今後高いポテンシャルを秘めているように見えます。

勿論、アメリカでのシェールガスの実用化など、今後の動向については不透明な要素も大きいものの、世界的な課題に対して、その資源をもって貢献できる可能性があります。

環境保護とどう折り合いをつけながら、そういった道を探っていくのか、そんな視点でカナダをウォッチしていくのもいいのではないでしょうか。

 

本書は普段あまり語られない地球の北方を主題にした面白い本です。

また気候変動や環境問題についても詳しく解説されており、世界の今後を考えるときの1つの視点として読むと面白いと思います。

 

最後までありがとうございました。